MBS Award Winner Miyako Akai's Miniature Books
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『即興集@湖ノ底カラ降ッテキタモノ』soldout

SOKKYO-SHU
A5 size book, contents: Akai's original novel in Japanese; published in 2002, 80 copies.

文:赤井都
2002 言壺 初刷40部 / 2刷40部
A5判 H210×W149×D5mm, 40pp., 101g
和綴じ、番号入り カラーインクジェットとレーザープリント 400円


ホッチキス綴じするには厚くなりすぎたため、和綴じの作り方のホームページを参照して初めて作った手作り本。綴じ糸は黄色透明のテグス。表紙はファンシーペーパー「星物語カレント」、見返しは花のラッピング用不織布。本文はコピー用紙で、初刷が一話ごとに色の異なるカラーインクジェット印刷、増刷は和本に似せた枠で囲った白黒レーザー印刷。本の内容は、原稿用紙数枚程度の掌編小説集。三題話形式の恋愛・ホラー、「ツチノコのハサさん」シリーズなど18本収録。




 遊び紙は、第1刷よりも黄色の強い明るいものにしてあります。
 通販特典として、ページからほのかな柑橘系をミックスした香りが漂います。


本文(第1刷)

 表紙は銀色粉入り。黄色透明のテグスで綴じてあります。紙を一枚ずつ二つ折りにして穴を開けて綴じるという、ひたすらな手作業で時代に逆行した和綴じ本で、一冊作るのに三十分以上余裕でかかります。400円でご奉仕。
 後ろ見返しに、ロットナンバーが入っています。
 中身は、原稿用紙数枚程度の掌編小説集です。基調はレトロな幻想で、姉妹本の『はしきれ』よりも、実験的傾向の強い小説のほか、恋愛・ホラーテイストなものなど、三題話形式で18本収録しました。

収録作品

 「即興集@湖ノ底カラ降ッテキタモノ」
 「山紫水明」「白砂青松」「柳暗花明」
 「サボテン」「聖櫃」「町奉行」
 「浴衣」「豊か」「味方」
 「孤独」「散歩」「青空」
 「恋人」「笹の葉」「天の川」
 「仕送り」「矛盾」「金魚」
 「コロッケ」「日常」「幸福」
 「蝶」「心」「旅」
 「紺」「箱」「布団」
 「太陽」「ガラス」「トンネル」
 「坊主」「狸」「女湯」
 「蘭学」「化け猫」「命」
 「島」「切符」「休暇」
 「部屋」「シャツ」「蛇」
 「ペンダント」「繰り返し」「水音」
 「落石」「海岸」「ペットボトル」
 「状況」「ごはん」「数字」
 「積乱雲」「鉱物」「オムライス」
 たとえば次のような三題話を収録しています。

「仕送り」「矛盾」「金魚」

 「どうしてあんなことができたのか、判らないことがあります」
 夏風邪をひいてハサさんは寝ている。傍らには分厚い本が積み上げてあるが、話してばかりいて読む気はなさそうである。
 私はハサさんが好きなので、水まくらなぞを準備している。ハサさんは横になっていると、胸の縁からぷつぷつ思い出が沸き上がるようで、私が立とうがそばに座ろうが、一定の調子で話し続けるのであった。
「その時は、なんの具合でか、親からの仕送りが途絶えたのですよ。ええ、私のようなツチノコの親でも、私が社会でちゃあんと暮らせるように、まめに毎月、送金してくれたのですが」
 私はハサさんの土気色の額に水まくらを載せた。土気色をしているがこれはふだんの顔色で、ハサさんはそれほど気分が悪くもないはずだ。
「や、どうも。……その時、私は飢えまして。冷蔵庫の奥のマヨネーズを、スーパーでもらったパンの耳につけて食べていましたが、どうも腹が減っていけない。そのうちに、大事に飼っていた金魚を、食べてしまいました」
 水まくらを揺らして、ハサさんはちょっと笑った。笑っているが悲しんでいるのである。矛盾しているように見えるこの動作はハサさんらしいと私は思う。
「それから、どうしたのですか」
 窓際で花瓶になっている、口の広いガラスの器は、本当は金魚鉢だったのだろうか、とふと思った。
「どうもしません。ただその時から、私は、自分が何でも食べるツチノコだと自覚しました」
 ハサさんはとても綺麗な目で私を見た。奥底に飛び込みたくなるような、この目を私は好きなのだ。好きすぎて、頭からその口に喰われたくなる。今日はこの辺で帰ったほうがよさそうだ。

copyright(c)Miyako Akai 2002, all rights reserved

製作販売経過

2003年第2回文学フリマにおきまして第一刷完売しました。どうもありがとうございました。12/28第二刷できました。ご注文いただけます。通販特典として、ほのかな柑橘系のナチュラルアロマがページの間から漂います!
2006/1/24/通販にて完売しました。ありがとうございました。


『即興集@湖ノ底カラ降ッテキタモノ』に寄せられたご感想の一部です

puhipuhiさんより
(第3回文学フリマ後11/15記事より
 プロの方々の作品はさておき、文学フリマで色々買った本のうち、アマチュアの人の小説で一番心に残ったのがこれだった。拙豚は作者と面識がないので、どんな人かは全然知らない。もしかしたらあのとき売り子をやってた人かもしれない。
 フリマに出品された作品をひとわたり読んで、ちょっと閉口したのは、自らに裡に閉じ籠もっているような作品があまりに多いことだ。もちろんそういう作品については、こちらから能動的に「読み」を行い、その殻をこじ開けて見るという楽しみはないこともない。しかし、小説というものは本来読者に向けて語りかけることによって成り立つもののはずだ。その点で「閉じた」作品はやはり物足らない。
 その点、この本『即興集』の中の小品たちは、自然に読者に向かって開かれている。まるで物語がどこからか自然にぽろぽろとこぼれおちてきているようだ。読者は思わず手を差し伸べ、掌にそれを受けとめたくなる。作者まえがきによると、某匿名掲示板(2ちゃんかな?)で募集された三題話に応える形でこれらの小品は書き上げられたのだそうだ。素晴らしい……
 なかでも拙豚が好きなのはツチノコのハサさんとアツコさんのシリーズだ。たとえばこんなの。
 私はツチノコのハサさんが好きだ。返事も聞かぬうちにハサさんの部屋にあがりこんで、勝手に水まくらの交換をしている。
 夏風邪をひいて箱のようなツチノコ独特の寝床に横たわっているハサさんは、少し籠った声で、
「恥ずかしい」
 と云った。
「なにがですか」
 手を止めて覗き込むと、
「この箱です。ああ」
 と、同じ籠った声で云う。私は新しい水まくらをハサさんの額に当てる。紺色の陰がハサさんの暑い瞼に落ちる。
「ああ、人間界でずっと生活しているというのに、私は蒲団がだめなんですよ。布の中では寝つけないんです。アツコさんに、私の箱を見られてしまいました。(後略) 
                (p.15「紺」「箱」「蒲団」)

どうです。続きが読みたいでしょう(笑)。

匿名希望さんより
本の感想は、
「完成度の高さに驚いた」
といったところになるでしょうか。
前記と後記が非常にいいです。
この2つがあるから、中身の短編が生きてくるような気がします。
ただ、中身の短編は出来に差があると思います。
100%なのと80%なのが混ざっている感じ。
ただ、私に80%の完成度のを書けと言っても書けないですよ。
赤井都としての完成度。そういう意味(笑)。
私が好きなのは「サボテン」と「坊主」かな。
ツチノコのお話は全体的に好きなんですが、話ごとにバラツキが
あってそこが残念でした。「箱」がいいです。
遊び紙は普通は使わないような材質のもので良かったです。

りりこさんより
 一気に読みました。
 おもしろかったです。とくにツチノコのハサさんまで来ると、おかしさにいたたまれなくなって、足を組み直した程です。
 とってもおもしろかった。そしてお話の進み方が深いです。
 とにもかくにも、とても楽しい時間を過ごせたことをご報告申し上げます。

北一郎さんより
 「即興集」には、作者の自然な資質がのびのびと発揮されて、耽美的な洗練された感性が楽しめました。
 これだけの美的で快い文章力があるから、選者が納得するのでしょう。
 時代のセンスが、もっと若がえれば(選者が世代交代すれば)赤井さんは、ビッグになれる可能性が高まるのでしょうね。
 私は、赤井さんの文章の静寂性と耽美性に魅力を感じました。梶井基次郎の良さを含んでいると思います。
 私は古い感覚のものですが、谷崎潤一郎の「刺青」、中島敦の「山月記」、梅崎春夫の「桜島」の系列につながる可能性を感じました。


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