文:赤井都
2008 言壺 限定各5部
H114×W90×D27の函入り, 132g 本H95×W72×D15mm, 53g, 90pp.
紙函入、布表紙角背上製、パピヨンかがり、ペン署名と限定番号入り レーザープリント、ラバースタンプ 15,000円
ぜいたくな大人のためのノートです。『紳士のノート』は紺の函入、『淑女のノート』は白い函入で五冊ずつ作成しました。函はマグネットボタンで簡単にぴったりと閉まり、鞄に入れて持ち歩いても、ばらばらになることはありません。『紳士のノート』はサテンリボンとシルバーのボタン、『淑女のノート』は生成りレースとアンティークゴールドのボタンです。本がちょうど収まるサイズの函ですが、リボンの端を引っ張れば、本を浮かせてたやすく取り出すことができます。函の内側には一枚ずつ違う写真が入っていて、取り出して好きな写真に交換することができます。ちょうどテレフォンカードサイズのフレームです。布装の本は手に取ると厚表紙の重みがあります。左開き(横書き)の本です。題字を書き込むスペースは埋め込んであるので擦れません。淡い青、緑、ピンク、ベージュ、白など、5色の紙(「新アトモス」「むらざと」)を太い手かがり用麻糸2本で綴じ、スピンをつけました。花布は表紙の共布。本文ページは8頁に幻想的なショートストーリーを印刷し、残りは無地で、ところどころに淡くラバースタンプを押しました。ページの間のかすかなパターンを探してください。スタンプ色は、白やバニラ。一冊ずつに異なる切手二枚貼り込み(チェコスロバキア、ドイツ、イタリア、中国の使用済み切手)。 『豆本づくりのいろは』作例その6。
Notebooks for Ladies and Gentlemen |
『どこまで夢なのかがわからない話』
地下室で、私は羽を作っている。閉ざされた狭い部屋の真ん中に、裸電球一つがついている。その下で、月光と曙光とをそれぞれ壜から注ぎ、ビーカーの中ですばやく混ぜ合わせ、機械に流し入れる。朝露二粒をその後から放り込む。
その機械は、両側に大きなハンドルが突き出した金属製のドラムで、中がどういう仕組みになっているかは分からないのだが、私が片側のハンドルを回し、向こう側をもうひとりが回している。機械の反対側にいつもいるそのひとが誰なのか、私は知らない。そのひとの影が、壁に当たって直角に曲がり、うごめき揺れ、伸び縮みする。そのひとの影には、瘤のような羽のようなものが突き出している。そのひとのように羽をつけたら、いっしょに飛んでゆけると私は思う。そのひともきっとそれを望んでいると思う。
ふたりで力を合わせてハンドルを回す。しばらく回していると、機械の上部から、ふわふわと羽の輪郭のようなものが浮き出してくる。なおハンドルを回し続けると、そのかすかな靄が濃くなって、もう少し羽らしくなってくる。
突然、乱れた足音が響き、パンパンと乾いた音が弾けた。
「羽の密造だ!」
私はハンドルを離して逃げ出した。
狭い室内だ。逃げてもすぐ壁に突き当たる。壁じゅうで大きな影が入り乱れている。私は左右を見た。部屋の角に小さなはしごが立っている。私ははしごまで走った。誰かの叫ぶ声を聞いた。はしごをよじ上った。誰にも阻止されなかった。下をちらりと見たら、できかけていた羽はしぼんでいて、部屋にひとの姿はどこにもなく、ただ壁を幾つもの奇怪な影が踊っていた。
そのとき、私はどっと上に飛ばされ、跳ね上げ戸がひとりでにぱたぱたっと開閉した。私は街路にいた。静かでなにごともない早朝の空気を吸って座り込んでいたが、しかたがないので、そのまま歩いて帰り、柔らかなベッドに潜り込んで深く眠った。
目覚めたら、どこまでが夢なのかがわからなくなっていた。