2017年1月30日

革装の洋古書と暮らす

 19世紀後半から20世紀初め頃の、洋古本をほんの10冊程度所有しています。旅行や古書市、譲渡、インターネットなどで少しずつ集まってきたもので、表紙のデザインや素材、バランス、色味、組版や印圧、紙の素材や見返しなど、持っているからこそ、その時々で気づくことが勉強になっています。
 さて最近、本たちを見ていたら、あれっこの革、前からこんなに粉っぽかったかな? とドキッとしました。うぅーん、買った時どうだったか思い出せない。良くない変化に早めに気づくには、日ごろの観察が大事だなと。写真で記録を取っておけば、前に遡って見比べることができます。
 うちの保存環境は、小さな家なので劣悪です。本の素材は、温湿度の変化が多いと呼吸が激しくなって老化が速まるので、大きな空間で温度低め湿度50%程度で一定が良いようですが、うちは夏暑くて冬寒くて結露しています。そのため、アーカイバル仕様の保存箱を揃えているのですが、本を見たいので、いつのまにか、かなりの本が保存箱の外に出てきてしまっていて、保存箱の中にはたいしたものが入っていない現状。これは……。本の保存と、利用との、両方を考えないとうまくいかないということを実証してしまいました。
 本の保存を優先すれば、本は保存箱に入れておくのが良いのですが、そうすると本が見えなくなってしまう。見たい時にその本を箱から取り出せばいい、というんじゃなくて、本棚に本をいつも見ていたい気持ちが自分の中にあるんだなと気づきました。「本の背表紙を眺めること」が、今現在の私の、本の利用の大きな目的になっているみたい。
 こうしたことを考えているうちに、「本って何」と疑問に思いました。一月にLe Petit Parisienの本棚に惹かれてスケッチに通ったのは、それが美しい売れる本ばかりを集めた古本屋さんの本棚ではなく、一人の蔵書だから。本棚写真集も見返しました。朽ちかけている、図書室の中の革装本。一律にグラシンをかけたフランスの古本屋さん。

 博物館で所蔵しているような貴重書なら保存最優先としても、私個人が買える程度の古本は、発行部数が多く、手元に来た時に既に傷みが来ているので、私があと20年間くらい日々眺めて閉じ開きすることを、本の利用の目的に掲げることにしました。うちに来た本はあと100年の長生きはできないかもしれないけど、本の保存はもっと大きな家に住んでいるコレクターさんに任せた! それよりも私が本を活用して、ここから見て得たものを今後の製本や制作に役立てることが目的。小さな家だけど、本を開架で置いておく、としました。
 革表紙の劣化については、私のノートには、「傷んだ革を元に戻す方法はない。予防が大事。保護ジャケットをかける。保存箱に入れる。傷んだ革にはHPC(ヒドロキシ・プロピル・セルロース)の無水エタノール溶液を塗る。塗ることでさらに傷める場合もあるので注意。良質の保革油を少量塗り、半日以上置いて空拭きする。フランスの博物館が開発した靴墨タイプのは失敗作なので使わないで。保革油が長期的に酸化するという意見もあるが、20年前に塗ったものが良い状態である。」と記されています。ところが、これは5年前に取ったレッスンノートで、昨日先生方に聞いたら「アメリカではもう保革油を塗らなくなった」という情報を知りました。うぅーん。そして、保革油を塗った50年後はまだ誰も見届けてないわけです。
 やはり、本の利用の方針を立てないと、一歩も先へ進めないと思いました。私の本の場合は、背表紙を含めて本の中身をあと20年美しく眺める、という目的を私一人が決定すれば、それでいいわけなので。革の状態を再確認して、保革油を塗ることにしました。しかし私のやり方が正しいかは、自信がないです。あくまでも自分の蔵書だからできるというものです。
 まずは、本屋さんからついて来たビニールやグラシンは外しました。それだけでも、気づかなかったことに気づきました。背が固い本は、120度以上開かないほうがいいので、書見台を使って作業してます。

 マイクロファイバーの布で、保管庫から離れた場所でクリーニングしながら状態を見ました。埃は酸化の元なので除去。本棚も拭きました。

 かびっぽくなっていた紙函があったので、アルコール塗布で、かびの根を断ちましたた。

 見た目が悪く外れている部分は、それ以上剥がれたり欠損したりしないように、JadeRでくっつけました。JadeRはもし取り去りたい場合は水で除去できる可逆素材です。他の部分につけないように注意してスパチュラで少量差し込んで、ヘラで抑えたら、私の所に来た本の価値が上がったみたいに見えたけど、その結論は50年後に。


 マーニーの保革油を塗り、本を立てた状態で乾かしながら浸透を一日待ち、その後、空拭きしました。ツヤっと美しくなったと思います。20年後どうなっているかわかりませんが、その他の条件も悪いので、これの影響だと特定もできないんじゃないかな。私にとっては、美しさと愛着が増しました。


 そして、気になるものにはグラシンをかけました。傷んで粉っぽい赤い背革の、粉が周りを汚さないように。また、良い状態の本が、手で触って見ているうちに傷まないように。

 HPCは取り寄せ中なので、粉が出ている革に実験的に塗ってみようと思っています。だめならこの背革は交換できるし、どのみち交換しなければいけないくらいの状態だし。続きはまた、一か月後くらいかな。

2017年1月25日

『雨ニモ負ケズ』ハードカバー製本工程

集中できる時間に、少しずつやっています。一気にやろうとすると無理なので、コツコツと、長距離走なペースです。使う道具は、定規や、手作りのジグ(この本の寸法ぴったりに切ったボール紙)などです。前小口を化粧裁ちしました。

表紙ボールも手で一辺ずつ裁断しています。既に何度も作っている本の作り足しになるので、設計はもうできているから、同じように作るだけ。「同じように」というところで飽きが生じると完成しないので、飽きないように、小ロットで作っています。前作った本の著者本を取ってあって、その実物を見ながら寸法を測ったりして確認しながら作っています。昨日は、表紙ボール裁断の途中まででした。手仕事をしていると、目の前に物だけがあって、言葉は要らない気分になります。ですが思い出した言葉があります。「コツコツやっていればいつかは終わる。いつ終わるかが問題だが」byコージ先生 いえ、あまり自分を追い込まずにコツコツいきましょ。手仕事にワープってないから。

2017年1月22日

豆本がちゃぽんvol.38

香港から来たティアナさんは、ホテルで朝までかかって豆本を仕上げたんですって。一つずつカプセルに詰めて、4作家の豆本を均等に混ぜ、がちゃぽん機械にセッティングしました。

そんなふうにして、東京堂書店神保町店で、国際色な豆本がちゃぽんvol.38始まりました! 有隣堂厚木店は、明日以降の開始予定です。レトロなマシンから、100円でどれか一冊が出てきます。

東京堂には私の豆本も並んでいます。受賞作はあと一冊、フランス山羊革のアリス豆本、活版印刷の雨ニモ負ケズ、レーザーカットで本文紙を切り抜いた本などあります。



カフェが混んでいたので、放心亭に行ってランチしながら、香港と日本の豆本交換をしました。お互い作るものどうし、作品を見ればもう通じ合うみたいでした。夢のようなひとときでした。

三省堂書店いちのいちでも、お買い物。そういえばここにも、赤い鳥1号きらきら星の残りわずかな一冊がありました。

そのあと、うちで箔押しワークショップを受けて、さすがに眠いと言いながらも、まだまだ買い物や食事へ。いちごが好きで、日本に来て毎日食べているんですって。うちではいちご大福でお茶しました。

2017年1月21日

大寒の頃

 この2週間、あちこちへ出かけていました。猫がなわばりをぐるっと巡回して、さらにちょい遠くへ足を延ばすみたいに。出没箇所は東向島珈琲店、Le Petit Parisien、ex.、朗文堂、冬青、リトルハイ、みずのそらなどです。教室をしたり、箔押しレッスンで教わったり、香港からのお客様と世界堂、などもありました。脳が活性化している時は、時間を長く感じるのですって。この2週間は、長かったですね。え、まだ1月なの? というくらいに。

 ほしおさなえさんの『活版印刷 三日月堂』は、すごく売れているそうですが、以前から活版印刷のプロたちの間で「作者はほんとに活版のことをよく知っていて書いているよ~、どうしてこんなに書けるのかな~」と話題でした。私は文学フリマで作者さんから活版カードを買ったこともあります。12月、中野での個展に、NHKテレビを見て、活版の紹介に惹かれて来た方がいらっしゃいました。この本を読んだけれど、小説なので当然説明は文章だけでなされているので、活版の実物がイメージできなくてと、展示を見て行かれました。その時に、もし私が既にこの本を読んでいれば、「あのシーンは……」ともう少しお話できたかもしれませんが、遅ればせ、今、読んでいます。中央線で、阿佐ヶ谷から西荻窪まで、涙がこぼれないように上を向いたきり。印刷物がどんなふうに仕上がったか、その印刷への職人的苦労がどんなにあったか、あまりにも私はリアルに想像できてしまうために、「印刷ができました」というシーンで、毎度毎度、涙腺決壊しそうになっています。変な人です。2月にシリーズ第二弾が出るそうです。

 製本をしていると、本はいろいろな作業の対象物なので、どこに何の手入れが必要かといった視点でつい見ていました。単に物として本のことをじっくりと見てはいなかったなと気づいて、古本のスケッチをしていました。古い本は、あちこちが擦れていて、その傷はきっと一つ一つ別の時、別の場所、別の手の中でできてきたものだと想像すると、長い時間、いろいろな空間を旅してきた石のよう。絵はいつもの0.5mmの黒いペンで描きました。原画そのままでもいいけれど、そのうち、スキャンして縮小して凸版にして、何かにしてみようかな。

 さて東京堂書店神保町店と、有隣堂厚木店で、23日から豆本がちゃぽんが始まります。今回はなんと、香港からの豆本アーティストの来日参加もあります! 前回来日の際、豆本がちゃぽんをして、はまってしまって、香港に帰ってから友人を集めて豆本がちゃぽんを始めたティアナさんの豆本も入ります。一回100円で、何が出てくるかはお楽しみ。今回の豆本がちゃぽんは国際色です。香港の豆本がちゃぽんは4周年を迎えて、記念冊子を作ったそうです。一文、寄稿しました。豆本手帳も出ましたね。

 少しずつ手を動かしています。ご予約を各方面からいただいている『雨ニモ負ケズ』二冊組ブックシュー入りは、ここまで来ました。綴じ終わり、天染めが終わり、しおりひもと花布がつきました。このあと、ボール紙をカッターと定規で裁断する、ちょっと力と集中力の要る作業に入ります。2月の完成を目指してきましたが、この後の作業工程はまだまだ長い……。集中します。

2017年1月13日

古い洋本が壊れないように閲覧する方法

新年の初仕事は、本に優しくする贈り物です。大きな古い洋本に当てはまる話ですが、一般に、本を閲覧する際、本の表紙は180度開くことが可能です。ただし、本を動かしてみて、背表紙と本体の紙との間に隙間がなく、くっついている本の場合、本の表紙をぱかっと開いて手を離すと、本の厚みがあるために、この状態では表紙を180度以上開いたことになっています。下写真で、本の表紙が一直線ではなく、それ以上開いていますよね。本の厚み分、余分に開いています。すると見返しや表紙に負担がかかり、この部分が切れてきます。紙が重いほど、厚みがあるほど、利用が頻繁で愛読されるほど、症状は進み、紙にひびが入り、見返しが切れ、ついには、表紙が取れてしまいます。(20世紀以降の本は、この問題に対して進化して、だいたいは、本の背と本体の間に隙間を作るように設計して製本しているので、こうした危険はありません。)

これを回避するよう、本の展示に使うような、本を160度くらい開く閲覧台を設置する方法もありますが、おおがかりですね。
そこで、本に優しくする、簡易的な台を作りました。開いた表紙の下に、本の厚みに応じて、一枚なり二枚なり、高さ合わせになるものをかましてやれば、表紙は180度以上開かず、これまでとほぼ変わらない感覚で、本を閲覧することができます。これで安心です。見るたびに本が壊れていくのは嫌だし、かといって本を開かないでいるなら、何のために本を持っているのかわからないです。


この台は、スチレンボードを芯にしました。たとえば木の板のような重いものを芯にすると、万一取り落とした時に本を傷めることになりかねませんが、軽いものなら安心だし、取り回しもしやすいので利用されやすいはず。本の紙の重さ以上の力はかからないので、これくらいで芯の強度は十分だと考えました。


外側は、革で包みました。本の革表紙に触れるものなので、革かネルか布か、と考え、埃がつきにくく、使うのが楽しくなりそうな、革にしました。折り返し部分と、縁をすきました。「不思議の国のアリス」で革すきを鍛えられたので、私にとって革すきはもはや瞬間芸です。

裏は、包んだままの革の厚みが不ぞろいですが、そんなに厳密さが必要なものではないので、使う楽しさ重視で。
表には装飾箔押しを施しました。クラシックな古典柄のワンポイントを、フォイル箔で。あくまでも本の引き立て役として控えめに。箔があると、薄暗い書庫でも存在感を発揮するので、見つけやすいし、ちょっときれいだから使おうという気に利用者がなってくれるだろうと思います。この書斎の場合、美しくないと、見える場所に置いておかれないだろうし、訪れる人も手に取ってくれないだろうと。そうした意味で革と箔押しで、ちゃんと使ってもらって、本に優しくするように、と。この台はLe Petit Parisienにあります。皆さんの近くにもしこんな古い本があったら、何かを高さ合わせにかませて、本に優しくしてね。

2017年1月11日

2017年よろしくお願いします

 新年の抱負「今だからできることをしよう」
 冬休みの間に、パソコンを新しくしました。
 『For You』特装版は完売しました。ありがとうございます。『雨ニモ負ケズ』特装版はご予約済みです。『月夜のまひる』はあと一冊、東京堂書店にあるのが最後の一冊です。『航海記』ケース入り、ケースなしとも、一冊ずつ、東京堂書店と通販にあります。『雨ニモ負ケズ』ブックシュー入り二冊組は、予約分を製本中です。応援してもらっていることを感じてありがたいです。活動が続けられます。
 そして道具の手入れとカスタム。デバイダーを、印をつける道具として使っています。買ったままだと、先端の形状が製本向きではないので、やすりで削って細くしました。革の上で、びーっと力いっぱい引いて、革が切れなければOK。そして、革に点を打って、革に穴が開かずにくぼむなら、OKです。写真は、手前だけまずは削ったところ。二本の脚を同じ形に整えました。