Poems of Chika Sagawa in Capsules
1 by 3/4 inches, laser-printed, sold in a capsule machine, 2006-2007, total 250 copies.
テキスト:左川ちか『季節のモノクル』『眠ってゐる』『死の髯』『海の花嫁』『朝のパン』『昆虫』『青い道』
写真:赤井都 イラスト:NeckDoll /写真装丁・ゴス装丁の二種/紙替え随時
2006-2007 言壺 7種計250部
H30×W20×D4mm, 14pp., 1g
アコーディオン折本、パラフィン紙包み レーザープリント 100円
昭和初期モダニズム先駆詩人左川ちか(1911-1936)の詩を、友人からの紹介で知りました。左川ちかの詩は、70年前に書かれたものながら、非常にモダンで、今読んでも斬新に感じられました。言葉からビジュアルが目に浮かび、超短編のような物語性があって、ロジカルでありながら論理を超え、一編ずつが小宇宙のようです。小宇宙を小さな形で丁寧に味わいたい、また多くの人に左川ちかを知ってほしいと思い、ファンアートとして豆本にしました。(没後五十年以上経過しているのでテキストの著作権は切れています。)詩の言葉を数行ずつ、物語のように頁を繰って読む体験を。アコーディオン折りなので、伸ばして飾ることもできます。制作した豆本は100円で動くガチャポンマシンに投入し、これまでに計200カプセル以上の左川ちかが落とされました。小さな種撒きとなりました。
『豆本づくりのいろは』p. 20 掲載。
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高円寺GALLERYノラや→高円寺BJ bar→茶房高円寺書林設置のガチャポンマシンに投入。2007.1.4発行。遠い方には、通販をしました。
青い道
涙のあとのやうな空。
陸の上にひろがつたテント。
恋人が通るために白く道をあける。
染色工場!
あけがたはバラ色に皮膚を染める。
コバルト色のマントのうへの花束。
夕暮の中でスミレ色の瞳が輝き、
喪服をつけた鴉らが集る。
おお、触れるとき、夜の襞がくづれるのだ。
それにしても、泣くたびに次第に色あせる。
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高円寺GALLERYノラや設置のガチャポンマシンに投入しました。2007.1.4発行。
昆虫
昆虫が電流のやうな速度で繁殖した。
地殻の腫物をなめつくした。
美麗な衣装を裏返して、都会の夜は女のやうに眠つた。
私はいま殻を乾す。
鱗のやうな皮膚は金属のやうに冷たいのである。
顔半面を塗りつぶしたこの秘密をたれもしつてはゐないのだ。
夜は、盗まれた表情を自由に廻転さす痣のある女を有頂天にする。
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Cafe Flying Tea Pot設置のガチャポンマシンに投入しました。2007.12.17発行。
朝のパン
朝、私は窓から逃走する幾人もの友等を見る。
緑色の虫の誘惑。果樹園では靴下をぬがされた女が殺される。朝は果樹園のうしろ
からシルクハットをかぶつてついて来る。緑色に印刷した新聞紙をかかへて。
つひに私も丘を降りなければならない。
街のカフエは美しい硝子の球体で麦色の液の中に男等の一群が溺死してゐる。
彼等の衣服が液の中にひろがる。
モノクルのマダムは最後の麺麭を引きむしつて投げつける。
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紙は、白サンド、ベージュピケ、茶アトモスの三種。それぞれに写真装丁と、ゴス装丁があります。ピケはトナー落ちが若干あります。表紙にはパンチ穴、折りたたんでからパラフィン紙でキャラメルのように包みました。2006.11.12.発行。
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季節のモノクル
病んで黄熱した秋は窓硝子をよろめくアラビヤ文字。
すべての時は此處を行つたり来たりして、
彼らの虚栄心と音響をはこぶ。
雲が雄鶏の思想や雁来紅を燃やしてゐる。
鍵盤のうへを指は空気を弾く。
音楽は慟哭へとひびいてさまよふ。
またいろ褪せて一日が残され、
死の一群が停滞してゐる。
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ピーナッツ殻が荒くすきこまれた紙の上に載せてあります。写真装丁はトナー落ちがあります。パラフィン紙でおくすり包みにしました。2006.11.12.発行。
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眠つてゐる
髪の毛をほぐすところの風が茂みの中を駈け降りる時焔となる。
彼女は不似合な金の環をもつてくる。
まはしながらまはしながら空中に放擲する。
凡ての物質的な障碍、人は植物らがさうであるやうにそれを全身で把握し制服し
跳ねあがることを欲した。
併し寺院では鐘がならない。
なぜならば彼らは青い血脈をむきだしてゐた、脊部は夜であつたから。
私はちよつとの間空の奥で庭園の枯れるのを見た。
葉からはなれる樹木、思ひ出がすてられる如く。あの茂みはすでにない。
日は長く、朽ちてゆく生命たちが真紅に凹地を埋める。
それから秋が足元でたちあがる。
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緑のグラデーション紙に載せました。読み進むにつれて緑が濃くなります。2006.11.12.発行。
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たとえば、『死の髯』を折りたたんで1ページずつめくっていくと、こんなかんじです。
死の髯
料理人が青空を握る。四本の指跡がついて、
――次第に鶏が血をながす。ここでも太陽はつぶれてゐる。
たづねてくる青服の空の看守。
日光が駆け脚でゆくのを聞く。
彼らは生命よりながい夢を牢獄の中で守つてゐる。
刺繍の裏のやうな外の世界に触れるために一匹の蛾となつて窓に突きあたる。
死の長い巻鬚が一日だけしめつけるのをやめるならば私らは奇蹟の上で跳びあがる。
死は私の殻を脱ぐ。
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玉しきという、水玉の透ける紙に印刷したもの
同じ詩を、写真挿画でアトモスブルー紙で装丁してみたもの 装丁違いは全8通り。2006.7.29発行。
装丁に使っている写真は全て、あちこちで撮りためてきたものです。『海の花嫁』では、喜多方の廃駅と蔵内部写真などを使いました。
海の花嫁
暗い樹海をうねうねになつてとほる風の音に目をさますのでございます。
曇つた空のむかふで
けふかへろ、けふかへろ、
と閑古鳥が啼くのでございます。
私はどこへ帰つて行つたらよいのでございませう。
昼のうしろにたどりつくためには、
すぐりといたどりの藪は深いのでございました。
林檎がうすれかけた記憶の中で
花盛りでございました。
そして見えない叫び聲も。
防風林の湿つた径をかけぬけると、
すかんぽや野苺のある砂山にまゐるのでございます。
これらは宝石のやうに光つておいしうございます。
海は泡だつて、
レエスをひろげてゐるのでございませう。
短い列車は都会の方に向いてゐるのでございます。
悪い神様にうとまれながら
時間だけが波の穂にかさなりあひ、まばゆいのでございます。
そこから私は誰かの言葉を待ち、
現実へと押しあげる唄を聴くのでございます。
いまこそ人達はパラソルのやうに、
地上を蔽つてゐる樹木の饗宴の中へ入らうとしてゐるのでございませう。
パラフィン紙でくるんだ状態。
『海の花嫁』は2006.7.29からカプセルに納めて『マメBOOKS』ガシャマシーンに入りました。
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作品履歴
2006.7.29/ 中目黒アートバードでの創作豆本展「マメBOOKS」ガシャマシーンに『海の花嫁』を21カプセル投入、完売。
2006.11.12/ クリエーターズマーケットでバロン堂ガシャマシーンに『海の花嫁』15カプセル程度委託投入、完売。第5回文学フリマで言壺ブースにガシャマシーン出品、『季節のモノクル』21、『眠ってゐる』26、『死の髯』21、『海の花嫁』8を仕込み、ほぼ完売(つまり第5回文学フリマでは左川ちか4作品計58カプセルが落とされました)。
通販開始、完売
2006/12/01/委託情報:中野『タコシェ』に本箱ごと納品しました。
12/22通販確保分完売しました。あとはタコシェにまだあれば、そこでお求めください。
12/カフェフライングティーポット、月箱で、『朝のパン』21販売
2007/1-2/高円寺ノラやで『昆虫』18販売。
2007/5/18/ワークショップで『青い道』10『朝のパン』10折って作ってみました。
6/1/BJ bar→茶房高円寺書林で、『青い道』25完売
8/通販『青い道』21『朝のパン』14『海の花嫁』7毎回紙替えしつつ少しずつ増刷、完売。
8/通販用に『眠ってゐる』7『死の髯』14増刷。
11/『眠ってゐる』完売
2009/『豆本づくりのいろは』展のために『海の花嫁』を増刷 初刷〜7種計250部
発行部数
『海の花嫁』21+8+7=36
『季節のモノクル』21
『眠ってゐる』26+7=33
『死の髯』21+14=35
『朝のパン』21+10+14=45
『昆虫』18
『青い道』25+21=46
累計234
『豆本づくりのいろは』展のために『海の花嫁』を増刷 初刷〜7種計250部
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