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Available at Yamagoya Arts and Books Online Shop(Tokyo)
2016年の『航海記』初版から8年後、新しいレイアウト、書籍設計で制作した『航海記』新版です。
装丁は『雁垂装』『海の窓装』『言壺装』の3種類。未綴じの販売もあります。
(このページの写真:市川勝弘)
Book Title: Kokaiki |
文・絵・書籍設計 赤井都
企画・レイアウト 新谷佐知子
金属活字整版による本文印刷 三木弘志(弘陽)
樹脂凸版による挿画印刷 赤井都
紙染め 吉成虎維(絵の具で、雁垂装見返し紙、海の窓装表紙と函の紙) 石原実(マーブリングで、言壺装表紙)
紙手漉き 明光ワークス アート工房和奏(本文紙 大阪) 三宅賢三(言壺装見返し紙 京都)
発行 山小屋ブックス(東京)
航海記の二番目の本となる2024年版なのだが、三年前からやっていたし、やっている間に2025年になってしまう。本の計画はこうした速度で進んでいく。
私の我儘がたくさん入って、こうしたい、は全部やった。
レイアウトも印刷も終わってしまったので、製本は後片付け作業のようなもの。製本家にとっては仕事の始まりなのだが、本を著作から最初から作っている立場からすれば、製本は最後に全部折り畳んで、きれいに仕舞って、保存し、かついつでも開きやすいアクセシビリティを具体的に構築する作業。本への道筋をつける作業。
デザインは全部済んでいて寸法のメモも整理したから、気が楽になるはずなのだが、この本はすごく気を遣う。使用している紙の性格が難しい。工程がオリジナルで込み入っている。私は、何度でも同じことを同じ神経で繰り返し製本することができるかをこの本で問われている。
この物語は、いつかの日に、パソコンのキーボードで私の指で打たれて生まれた。そのテキストはずいぶん長い間、ハードディスクの中に眠っていた。私がそれを本にする気になり、そこからこの物語は航海を始めた。助けられながら活字を拾った日のこと、強い気持ちで海の波を描いた日のこと、そしてある日の電車の窓、ある日の会話、ある日のキャラメルの溶け方、砂とスイートピーの垣根、いろんな出来事と夢想が旅をした。
風が吹いて木の葉が舞うように。風が吹いて雲が流れるように。人は本を読むのが自然。
雨が降って。寒くて。人は本を読む。
夕日だから。朝だから。人生のある日に、人生の中の時間を使って、本を読む。
ヤシの木の木陰に小さな洞穴があって、その中に似つかわしくないくらい細かな彫り物の木の机があって、この本が置かれている幻想。
あるいは、草むらの中でこの本を拾って、巻かれた木の葉のような表紙をほどいていく幻想。
この島に元いた住民が、何らかの方法で本を作り置いたのだと思う。
それを私は拾った。
その住民は、異世界の小さな人だったかもしれず、違う文化の人だったかもしれず、どんな存在だったとも分からないのだけれど、その人が何か本を作ろうとして、こんな紙にこんな印刷をして、こんな綴じ方をしたのだろうと想像できるような本。
その人は言葉の形で舟を出したのだと思う。
舟は言葉を載せて、遠くまで行くことができる。違う世界へまで。
そして私はこの本を拾った。
文字は、ここにいない人に言葉を届けるための手段だ。
言葉は本来、声に出して人に考えを届けるものだった。言葉が文字を持つようになると、声が届かない人にも、声を届けることができるようになった。
文字を黙読するのは近現代の習慣と聞いたことがある。昔は文字を必ず音読する人たちがいたと。
黙読して言葉を読むようになると、視覚にだけ感覚が偏りがちになる。
けれど、この本は、手に持って、開いていかないといけない。手触りや、小さな力加減や、紙の音や、紙を動かした時の光の移ろいや、いろいろな感覚があって、言葉が届いてくる。いつもと違う感覚が働くといい。
耳つき手漉き紙本文活版印刷32ページ グラデーションカラー凸版挿画13枚入り 麻糸手かがり 手染め見返し紙 柿渋紙表紙 くいさき外題貼り込み H75×W52×D9mm 限定210部
海が見える喫茶店に、この本が置いてある。
否、この本が置いてある机が、海が見える喫茶店になってしまうのだ。
函の扉を開けると、自分が中に入ってしまう。
これまでの役柄は全て風に吹かれて脱げてしまう。ちっぽけな頼りない裸の自分自身になって、遠い海の風景を見て、最後に月を見る。自分しかいない。
その額縁の扉を通って、こちら側に戻ってくる。
障子の向こうのいつもの月。
海の色はさまざまある。
夜、季節、深さ、風、さまざま変わる。
記憶の中の海の色と、そうであって欲しかった海の色と、これから見たい海の色と、さまざま変わる。
どんな海の色も、この本の中に見出すことができるように。
洗練された白い壁に、影が落ちて、人生は移り変わり、昨日と同じような今日ではなく、そうであって欲しかった今日ではなくても、海はそこにある。
「海の窓装」染紙について 吉成虎維
汎用品でなく「海の窓装」のためだけの青い絵を五十枚、欲しかった。
大机に和紙を広げて刷毛を掴み、物語の色に深く潜り込み今夏を過ごした。
本展を企画する新谷佐知子氏と『航海記』について語り尽くし、それでもすぐには描き始めず、本当に画面が焦点を結んで初めて、絵筆を走らせた。
本文と表紙の一致を目指した。絵の画面にスジが走っている。紙を凹ませて刻んだ。あれは『航海記』の本文を活字整版した三木弘志氏へのオマージュでもある。
僕は、2020年にGallery and Shop山小屋で赤井都氏の初版『航海記』を特設読書席で読み、その儚げで詩的な書籍設計と清冽な文章に感服した者の一人だ。
耳つき手漉き紙本文活版印刷32ページ グラデーションカラー凸版挿画13枚入り 麻糸手かがり 額縁付き雁皮刷り挿画入り 手染め紙表紙 上製本 外題貼り込み
本H76×W58×D14mm
マグネット内蔵手染め紙貼り函H81×63×19mm
限定50部
ずいぶん前に、15年くらい前か、惚れこんで購入したマーブル紙の一部分を使って、まだ残っている部分があった。
また、前に、12年くらい前か、惚れこんで購入した雑草の手漉き和紙があり、柔らかくて自立せず、また繊維の部分は硬くて印刷に向かなくて、好きだけれどずっと持っていた和紙があった。和紙の職人さんから、できた豆本を見たいです、と言われていたのだけれど、こちらが紙が活きる形を思いつくまでに時間がかかり、2年ほど前に紙漉きを辞められたと伝え聞く。
他にもそうした物があった。
懐かしくて、前からずっと好きで、今も変わらず好きな物。
そうした物を集めた、私らしい自然さの本。
ここ数年で進めた研究で、和紙の保全のためにトップコートに何を塗るかを、自由な発想でしてみた。海の物は、キラキラしていることが多いから、砂浜で見つけた物のように、函をのぞき込んで、どうしてここはキラキラしているのだろう、どうしてここは流れてしまっているのだろう、といつまでも見ていて欲しい。
これらの本文の紙は、耳つきで印刷したので、両面は少しずつずれている。それでもいいからと文字を活版印刷してもらった。
挿画の印刷をするために、製版の準備を何か月もしていた。暑い夏だった。印刷をしていると、日は長いのに、それでも夕暮れになってしまう。夕暮れの窓の左側に、泣きたいような忘れな草色になる部分がある。その色を再現するように定着するように刷った。
本文の紙の表面は、完全に平らではない部分がある。そこでインキが抜けたり、かすれたりする。それも構わないと思う。
この紙を使いたかったから。
白色度は、この紙にしては不思議なくらい白色かもしれない。
海の物は、眩しくていい。
紙は裏移りしないように、そして一冊の厚みが出るように、厚い紙を選んだ。これを折って本の形にするために、私の製本家としての技術が高みに上った。
耳つき手漉き紙本文活版印刷32ページ グラデーションカラー凸版挿画13枚入り 麻糸手かがり 雁皮刷り挿画綴じ込み 手染め紙表紙 ガラスビーズ付 くいさき外題貼り込み
本H76×W58×D10mm
手漉き紙貼り函H88×68×28mm
限定20部
A4サイズ耳つき手漉き紙 本文活版印刷32ページ グラデーションカラー凸版挿画13枚入り 限定20部
作品履歴
2019/初版発行
2020/Gallery and Shop 山小屋で、読書席のある個展を開催
2024/11/豆本『航海記』のものがたり Gallery and Shop山小屋で個展。オンライン販売も山小屋shopで開始