Jan 21, 2012

カッターの安全な使い方(仮説)

 10日ほど前、カッターの刃が定規を上ってきて、左人差し指を切る怪我をしました。順調に回復しているので、ご心配には及びません。まずは本を汚さないことは守り、止血しました。
 私は、カッターの刃が定規を上ってくる悪癖を、作り始めた初期の頃から持ってます。二年前にも同じパターンで怪我をしました。その時も、作業の終わりかけで、終わったらする次のことに頭が向いた時にやってしまい、「事故が起きやすいのはトンネルの出口付近」と心しました。急いで切ってはだめ、というのは鉄則ですが、しかし、慣れれば速度も上がる。そして私はカッター作業の精度に自信を持っています。痛みを忘れた頃に同じことを繰り返してしまい、何かが根本的に違うのではないかと思いました。急ぐな・気を抜くな、という精神のありように頼るのではなく、カッターの刃が定規を上る癖を根本から阻止するのが、安全対策ではないかと。
 そして、いろいろな製本家や料理人の、刃物を使う姿勢を見比べ、自分のこれまで取ってきた姿勢を思い出して、結論的なものを見出しました。ただ、私が今はまだカッター作業がさほどできないので、自分で実証する前の、仮説の段階です。
 仮説であってもブログに書くのは、豆本作家や、複数の先生に習って複数の方法が未分化で混じっている人に特有の、危険があると思ったからです。痛い思いはしてほしくない。
 私は当初独学で作り始めた頃、小さくて厚みのあるものの前小口化粧裁ちの精度を出すために、切りたい辺を上にして定規を手前に当て、カッターを横に引いていました。この時は、座って覗き込むように切り口を近くで見る姿勢を取っていました。ルリユール工房に行くようになり、カッター作業は立って、切りたい辺は右にして、縦に引くようにと習いました。でも一人で家でする作業の時、こっそり横切りに戻ったりしていました。豆本の前小口化粧裁ちは、やっぱり座って、切りたい辺が上にした時に私の手では最も精度が出ます。また、家で作業する時、机の奥行がないので、切りたい辺が三十センチ近く長い時は、机の奥に横に置き、体を斜めにして切っていました。そんなふうにして意識せずにごちゃごちゃ混じったのは、切りたい物に対する腰の向きだと思います。座って作業してから、机に対する骨盤の向きが並行のまま、立って作業を始めた時、カッターの刃が定規を上る、例の悪癖が始まったのではないかと思われてきました。
 で、この仮説を元にいろいろな製本家たちの作業写真を見比べたり、聞いたりして、私の出した結論(仮説)へ行くと、

・カッター作業で安全を確保するために大事なのは、まずは骨盤と切りたいものの位置関係。切りたい辺に対して、腰は斜に構える。座って作業する時は、切りたい辺を上に、上体をひねってのぞきこむ姿勢がマル。この時は肘を引いて切る。立って作業する時は、切りたい辺を右にして、左足を一歩前へ出す(左ききの人は両方を逆に)。半歩では少なすぎで、足と足が離れるくらいの幅はほしいようだ。この時は、腰を引いて切るのがよいらしい。切るために全身を使う。

・安全のためにもう一つ大事なのは、カッターを動かす速度。速度が上がりすぎていれば、腰を斜に構えていても、カッターの刃が定規を添わずに上ってくることはあり得ると考えられる。速度をコントロールするためには、これまでは「急ぐな」と精神修養的なことが言われてきた。製本には、糊引きのような急ぐ必要のある作業と、カッターのような急ぐと危ない作業とがある。それらの作業に要求されるスピードが異なっている。一つの作業が終われば、次の作業では、作業のリズムを変える必要がある。そのために有効なヒントは、職人の作業歌にあると思う。たとえば和紙職人から、楮を叩く時の歌と、紙をたぷたぷとゆすって抄く時の歌とを聞いたことがある。毎日する単調な作業は、それにかける時間が短くなったり、速度が速くなったりしがち。それをコントロールするのが、歌のリズムや長さだと思った。紙を切る時には、ゆったりとしたテンポの歌を頭の中で歌うとよいのではないか。力の抜けそうな、かぼそい「月の砂漠」とか、腰が後ろへ引けそうな「こげよマイケル」とか……。たとえば、刺身を切る時に最適な包丁の速度がありそうなように、最適な歌がありそうだけれど、とりあえず何か「カッターのテーマ曲」を決めて、歌う。

・もう一つ、大事だと思うのが、カッターの握り方。つい力が入ってしまいがち。これも、「切るぞと思うとだめだ」と精神修養的なことが言われてきたが、気がつくと力が入っていたというのでは根本的に安全ではないと思う。また、初心者に「力を入れないで」と言うと、あまりにも力を抜いてカッターがぶれたり全然切れない人もいたので、力を抜いてきちんと持てる持ち方がよい。カッターを持っている手の写真をヒントに、洋紙一枚にステンレス定規なら基本は刃を二刻み出し、カッターは四本指できちんと持つといいのではないか。小指は伸ばして机上をなぞる。それでスピードも自然と下がるブレーキ役になりそうだと思う(仮説)。五本指で握ると思わず知らず力が入りすぎる時があるので、四本指で。

 以上の三点が、カッターの安全な使い方(仮説)。さらに基本として、作業中に手元から目を離してはいけないのはむろん鉄則。ただし気持ちが一瞬でも離れてしまう、人間だものなミスは、上三点でより安全になるのではないか、これからの作業で実証していきましょう。
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