Feb 05, 2014

豆本の値段について

 先月、松屋古書展で呂古書房さんにお会いした時、「今の豆本が安くって」と言われた。でも私は「いえ、古書の豆本のほうが安くって」と言って、二人で顔を見合わせた。
 古書の値段は、その本が欲しいと思う人がどれだけいるかという需要、その本がどれだけレアかという供給、そしてその本自体の価値への店主の目利きで決まると私は理解している。
 店主の目利き。これがなくって需要と供給だけで値段が決まるのは、たとえばヤフオク。ヤフオクは、一人が欲しいと思って、一人が値段を吊り上げる心理テクでも使えば、価格はうなぎ上りになる。 「ヤフオクの値段はむちゃくちゃ」といろんな古書店主から聞いたことがある。
 古書店がつける値段には、まっとうさ、という指標もひそんでいる。「どんなに売れる物だって、この本にウチがつけるのはこの値段さ~」ってところか。お店のカンバンを、一冊ずつ本の値段がしょってるというと大げさだけど。
 私が駆け出しの頃から行っていたのが、かげろう文庫さんで、そこで「こんなの作りました」と『雲捕獲記録』を見せた時、「発行部数は何部? 販売価格は幾ら? う~ん、これは古書価はもっといくよ」と言われたのが私が「古書価」を意識した始まり。
 それ以来、私は、今の需要と供給(私のかけた労力や作った後の疲れ度、売れそうな価格・売れて材料費や印刷費が回収できるかどうか)だけでなく、「この豆本がもし古書になったら古書価は幾らだろう?」ということも、ちらっと考えて、値づけするようになった。古書価があんまりとんでもなく、販売価格からかけ離れないようにと願って。買ってくれる人に、ばかみたいなおもちゃを掴ませないようにと。また、古書価がつけられる程度には保存がきく素材であるようにと。古書価には私がこれから何をどう作っていくか、という将来も大いに影響することなので、確定したものはないんだけど。
 その結果としての私の価格は、ミニチュアブックソサエティのカタログに載っていると、周りの世界の豆本から比べて、どこかおかしいの?自信ないの?と訝しまれそうなくらい、はっきり言って安い。
 製本の人からは、「いっつも安い値段で…」と憐れまれるくらい安い。
 手製本やアートにあまり触れていない人からは「高い! 紙がこんな値段なんて!」と言われる。
 本と豆本を10年くらい作ってきて、わかるのは、本っていうのは値段が高くなって当然な表現形式なこと。つまり、本はすごくコンパクトに詰まってしまう物だ。
 たとえば、活版印刷のポストカードが一枚300円くらいで売られている。それが活版アートの価格とすると、64ページ活版で作った本は印刷だけで単純計算で19200円、それに綴じや表紙や面付けの手間が加わって2~3万円軽くいくと考えられる。
 エッチングで一枚1000円の価格をつけている人は、16ページの本にしたら単純に印刷だけで16000円になる。それに連作としての完成度や綴じの値段を加えたらもっと上がる。たいして表紙に凝らなくたってすぐ2~3万円な物になる。
 よっぽど気をつけないと、力を入れて高くなりすぎな物を作ってしまう。
 本が西洋で昔、羊皮紙で作られていた時、本を作る際には、まず領主に狩猟の許可を取って、羊を何十頭もほふり(羊代だけですごい値段)、皮をなめして書ける状態にして、そこに手で字や絵を書き込んで、綴じて、表紙をつけて…。一冊の本が、馬車何十台ぶんもの財宝に匹敵したと言う。(このエピソードは『豆本づくりのいろは』にちらっと書いた。)つまり、本というのはそれだけコンパクトに詰まるメディアで、一冊に、何十頭もの羊の皮と、注意深い絵の具などが収まってしまう物だということ。
 そんな私が勝手に共感を覚えるのが、お菓子の世界だ。和菓子やフランス流のプチフールも、ものすごい手間が、小さな小さなお菓子に凝縮してしまうんだから。そしてそれを、人の口に入る値段にしなくては誰も食べられないんだから。
 本づくりを、小さくても出版と考えているので、コスト削減は常に考える。ただアーティストの我儘ぶりを発揮する部分もある。コスト削減だけでモノ作りなんてつまらないし、かける手間を中途半端にもできないわけだし。
 本を作る時は、選択の積み重ね。何色を選ぶか、素材をどうするか、どんな方法でパーツを組み立てるか。『選択の科学』を読んだ。自分の選択は、自分が作るということ以外の何かに影響されていないかは、意識する必要がある。
 読書する人の姿、手の中にある本を見るのは好き。『読む時間』は本という物をもう一度考えさせてくれる写真集。
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