2011年9月23日

翠迷宮 Labyrinth of Jade@柳橋一丁目

 神田かげろう文庫でもらったフライヤーを手に、浅草橋を歩く。黄色いラインの電車が走る総武線の線路に沿って進むと、ほどなく隅田川に突き当たる。突き当たりの折れ曲がった階段を行く人がいる。階段の先は川しかない。目当ての恋月姫のお人形より先に、隅田川を見てみた。河畔が広いテラスになっていて、ベンチでくつろぐサラリーマンあり、川を行く遊覧船もあり。ほどよく曇り、秋空が広かった。
 その川べりの柳橋一丁目、かつて昭和歌謡で一世を風靡したという芸者市丸の屋敷が、ギャラリー空間として開放されている。門をくぐって紅白水引の庭を通り、屋敷の入口に着き、靴を石の上に脱ぐ。
 狭い廊下をそろりそろりと渡っていった和室の畳の上に、白レースをまとったお人形たちが横たわっていた。床の間にも美麗衣装の子が立っている。窓の桟の間から、きんもくせいの香りを含んだ外気が流れ込んできている。渋澤邸での撮影に使われた人たちや、悪女列伝(マリー・アントワネット、則天武后、エリザベス・バートリ、エリザベス1世)、KERAマニアックスやBABYなどブランド衣装とのコラボ、コンセプト・ドール3rdエディション(特殊樹脂)などがあった。一対一でお人形と対峙したくて、あえて平日昼間を選んで行ったのだが、平日昼間に来られる人たちは案外たくさんいて、時折一人になるが、常にそれなりに人がいた。
 二階に行くと、隅田川を見下ろす広々とした座敷になる。ベランダに続く戸が開け放たれ、ゆらめく水と座敷が一体となって見えた。緑のツタが額縁のように絡んでいる窓のそばに立つ子、茶色の桟の障子に頭を寄せている子が印象的だった。それと水に向けた小さな足先。風景と、室内の和箪笥やソファなどのアンティークとあいまって。
 恋月姫さんのお人形を、これだけたくさん一気に見たのは初めてで、そしてそれだけ純粋に囲まれると、しだいに女の濃さが肌に伝わり、頭の血にも混じってくるかんじで、女であることの覚悟とか、業とか欲とかを、ごくナチュラルに備えた人形たちであることよなあと思った。「美しいね」という賛嘆の声は会場でも聞いた。けれどその美しさが、何から生まれ、何から立ち昇ってくるかというところに思いを致すと、少女の生き血風呂に浸かったエリザベス・バートリの無垢な瞳に立ち返ってしまう。うつむきがちの美々しい則天武后の形が、答としてある。一人しか入れない地下の会場では、秋草が静止し、水と苔がたまり、その中でたった一人、前を向いている少女がいる。
 軽く見るつもりで、一時間以上いたらしい。外に出ると日が傾いていた。もう少し後の時間もいたら、夜に変わる光線で、お人形を見られただろう。今月16日まで。11:00-19:00ルーサイト・ギャラリー。恋月姫blog(制作状況)
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